テンチワゴウ




 天 地 和 合






天と地、陰陽両気が一致、和合すること。
「陰陽和合」「自他一致」「神人一致」「人類大和」「天地一指」「万物和合」ともいう。



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たとえば『荘子』に「天地一指也。」という一節がある。天地は一本の指であり、差別の世界を超越して見れば、天地間の万物はすべて同一であるという意味だ。こうした思想は天地開闢の後にも、さまざまに変奏されて、古今東西の各所に出現する。



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直江兼続「五楽願書」には、次の五楽が祈願されている。



《 天地和合
  君臣合体楽
  武運長久楽
  子孫繁昌楽
  祈願成就楽 》




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説経「をぐり」には、次のような変わった用例が見える。
《桑の木の弓に、えもぎの矢、「天地和合」と射払ひ申す。》
『新潮日本古典集成』の頭注によれば「射る際の言葉であろう」とある。なるほど、目標の一点に照準を合わせるときに「天地和合」と言ったという解釈は、興味深い。                         



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国枝史郎「鵞湖仙人」に「陰陽和合」の用例ならばある。



《物語は三日経過する。
 此処は天竜の上流である。
 一宇の宏大な屋敷がある。
 薬草の匂いがプンプンする。花が爛漫と咲いている。
 鵞湖仙人の屋敷である。
 その仙人の屋敷の附近へ、一人の侍がやって来た。他ならぬ由井正雪である。
 先ず立って見廻わした。
「ううむ、流石は鵞湖仙人、屋敷の構えに隙が無い。……戌亥にあたって丘があり、辰巳に向かって池がある。それが屋敷を夾んでいる。福徳遠方より来たるの相だ。即ち東南には運気を起し、西北には黄金の礎を据える。……真南に流水真西に砂道。……高名栄誉に達するの姿だ。……坤巽に竹林家を守り、乾艮に岡山屋敷に備う。これ陰陽和合の証だ。……ひとつ間取りを見てやろう」》



夏目漱石『明暗』にも「陰陽和合」の例ならばある。
《ところが陰陽和合が必然でありながら、その反対の陰陽不和がまた必然なんだから面白いじゃないか。》