イフウドウドウ




 威 風 堂 々 






威厳があり、立派なさま。
「威風凛然」「威風凛々」「威武堂々」「英姿颯爽」「高邁奇偉」「揚武揚威」「容貌魁偉」ともいう。



さて、この四字熟語を扱うには、いつもとは違って、クラシック音楽の話から始めなければなるまい。



エドワード・エルガー
そう、「愛の挨拶」でも有名な、イングランドの音楽界「中興の祖」と称えられる作曲家である。彼の Marches に " Pomp and circumstance " という曲がある。全部で5曲(6曲目は未完、死後に発見、ペイン補筆)から成るが、第1番ニ長調がとりわけ有名である。誰もが一度は耳にしたことがあるのではないかと思う。1902年のエドワード7世の戴冠式頌歌として用いられた。王はトリオ(中間部)の旋律がお気に入りで、「世界中の人が口ずさめるように歌詞をつけたらどうじゃ」と言ったと伝えられている。事実、イングランドでは「英国第二の国家」と言われ、アメリカでは卒業式で必ず演奏される曲となっている。エルガー自身、生涯で一度しか作れない曲とまで言っている。



  エルガー:行進曲「威風堂々」


しかしながら、この曲をわが国で有名にしたのは、音楽や逸話もさることながら、《威風堂々》という題によるところも大きいのではないか。直訳すると「壮大な盛儀」とでもなるところを《威風堂々》という風に名訳した訳者の功績は、やはり多にして大であると称えざるを得ない。



ところで " Pomp and circumstance " という題の出典は、シェイクスピアの『オセロ』(第3幕第3場)に出てくるオセロの台詞である。
《Farewell the neighing steed, and the shrill trump, The spirit-stirring drum, the ear-piercing fife, The royal banner, and all quality, Pride, pomp, and circumstance of glorious war!》
ただ、管見の限りでは、福田恆存小田島雄志ら、該当箇所を「威風堂々」と訳した例は見当たらない。



そこで、エルガーの曲名を戦前のレコードや演奏会の曲目などで調べると、《威風堂々たる陣容》となっている。誰が最初にそう訳して、誰がそれを《威風堂々》と短縮したのか。興味のあるところであり、ぜひとも誰かに突き止めていただきたい課題である。



閑話休題(「それはさておき」と読む)、文学の話題にも触れておく。
今朝の朝刊では、各紙とも映画『おくりびと』が第81回アカデミー賞の外国語映画部門で受賞したというニュースを一面で報じていた。富山に住む映画好き、文学好きとして、これほどうれしいニュースはなかった。この映画と富山とのかかわりは深い。まず滝田洋二郎監督が、高岡市福岡町の出身である。次に、この映画を作ろうと主演の本木雅弘さんをインスパイアした青木新門さんも、富山出身。さらに青木さんの著書『納棺夫日記』を発行したのも、桂書房という富山の書肆であったからこそ、富山と縁があると言ってみたのである。



ということで、青木新門定本納棺夫日記』から用例を引く。
《村の親族から米や野菜を貰って生活し、現金がどうしても必要な時は、蔵にある骨董品などを売り、売るものがなくなって、しまいに仏壇さえも売ってしまう生活をしていながら柿の木をいじっている祖父が、威風堂々と自転車に乗っている有り様は、少年の新治から見ても滑稽に思えた。》



もちろん、これ以外にも用例は多い。たとえば、夏目漱石「坑夫」の例だけ挙げておこう。
《この男に比べると角張った顎の、厚唇の長蔵さんなどは威風堂々たるものである。》



記念すべき日に、邦画、あるいは富山の文化が今後、威風堂々と真赤な絨氈(レッドカーペット)を歩んでいくことを祈りつつ。