ビョウショウリトク




 病 症 利 得






‘ gain ’ この名詞は、電子工学の分野では、受信機・増幅機などの入力信号レベルに対する出力信号レベルの割合のことを指す。‘ gain control ’ と言えば、入力信号レベルが変化しても、出力信号を一定に制御することを表すそうだ。



「病症利得」( gain ) とは、フロイトの「自我の防衛機制」理論に関係する術語である。「症状利得」「疾病利得」「傷病利得」などとも言う。なかには「仮病」あるいは「詐病」といった言い方をする人もいる。そういった言い方をする人の気持ちも理解できないではないが、追い詰められた人の逃げ道を塞ぐことにもなりかねないので、こういった言い方には少し慎重であるべきかもしれない。



フロイトによれば、人は心的な苦痛・不快・不安・危険などを察知すると、それを回避するために、「抑圧」や「制止」など、さまざまな防衛機制を敷くという。その一つに「病症利得」がある。「病症利得」には二種類あり、病気(神経症)へと逃避する「第一次病症利得」( primary gain )と、病気になることによって周囲の人々からの愛情やいたわりを求める「第二次病症利得」( secondary gain )とに分類される。前者は心の問題だが、後者は社会性を帯びている。



「病症利得」、とりわけ「第二次病症利得」が厄介なのは、周囲の愛情やいたわりという“アメ”のために、いつまでも治ろうとせず、症状が慢性化してしまうところである。だからといって、「甘えてはいけない」とか「どうせ仮病だろう」とか言って、周囲が冷たく“ムチ”を揮うと、自分で自分を追い込むようになって、却って症状をこじらせてしまうから難しい。二者択一ではないのだ。



人間の心というものは、まことに脆弱である。少なくとも、電子機械のように、巧くはいかない。