イチロウエイイツ




 一 労 永 逸



一度苦労しておけば、その後は永久にその恩恵に浴して、安楽な生活を送ることができるということ。あるいは、ほんの少しの骨折りで多くの安楽が得られるということ。訓読すれば「一たび労して永く逸んず」となる。「逸」は「やすんず」と訓読し、安楽や利益を意味する。



出典は『文選』であると言われている。だが、班固に作らせた銘文には「茲可謂一労而久逸、暫費而永寧也。」とあるので、厳密に言えば「一労永逸」ではなく、「一労久逸」ということになるだろう。なおここにある「暫費永寧」( ザンビエイネイ )や、別の箇所にある「暫労永逸」( ザンロウエイイツ )によって同じ意味を表すことも可能である。



孫文が「三民主義」を主張する際に「一労永逸」という四字熟語を頻繁に用いている。「私は一労永逸の計をなすために民生主義をとりあげ、民族民権の問題を同時に解決しようとした。これによって三民主義の主張が完成することになった」と。



「一労永逸」は日本でも用いるが、恐らく中国語でよく用いられる四字熟語であると思う。



知人は「イチロー永逸」と洒落てみせ、「イチローにはスランプがない」と笑っていたが、四角四面な私は「四面魚歌」などの創作四字熟語にまで手を広げる余裕はない。ぽ〜にょ、ぽ〜にょ、ぽにょ、魚の子。



私は魚の子ではないが、だからといって孫文ほどの大人物でもない。この四字熟語を思い出したのは、予防接種をするときの看護師さんの言葉によってである。「ちくっとするけど、すぐに終わるから大丈夫ですよ。」



これもまた「イーラオヨンイー」に相違ない。寒くなってきたが、インフルエンザには、くれぐれもご注意あれ。