ヒヨクレンリ




 比 翼 連 理






夫婦の情愛が深く、仲睦まじいこと。類義語に「偕老同穴」(カイロウドウケツ)「関関雎鳩」(カンカンショキュウ)「琴瑟調和」(キンシツチョウワ)「形影一如」(ケイエイイチニョ)「合歓稠謬」(ゴウカンチュウビュウ)「相思相愛」「双宿双飛」(ソウシュクソウヒ)などがある。



由来は、白居易の長編叙事詩長恨歌」。玄宗皇帝と楊貴妃の恋愛をうたうが、七夕の夜も二人は愛を誓い合った。「天に在りては願はくは比翼の鳥と作らん、地に在りては願はくは連理の枝と為らん」と。「比翼の鳥」というのは、空想上の鳥で、雌雄が一目一翼のため、二羽一体で飛ぶらしい。他方「連理の枝」というのは、根や幹が別々でも途中で接合して一つになった枝のことをいう。



青空文庫を検索してみると、海野十三ヒルミ夫人の冷蔵鞄」の用例が見つかった。「ヒルミ夫人の冷蔵鞄」とは、乱暴に要約してしまえば、その題の通り、ヒルミ夫人が整形した夫を冷蔵鞄に入れる物語ということにでもなろうか。この要約ではあまりに頓珍漢だろうが、しかし、いま読むと設定がそもそも馬鹿馬鹿し過ぎる小説なのだから、仕方がない。さて、ヒルミ夫人と、千太郎改め万吉郎の結婚生活とやらを、やや長めに引用してみようではないか。



《医学博士ヒルミ夫人のいうところに随えば、人間の恰好を変えることなんか訳はないというのだった。ことに、大した面積でもない凸凹した人間の顔などは、粘土細工同様に自由にこね直すことができると断言しているのであった。ヒルミ夫人の門に教を乞う外科医がこのごろ非常な数にのぼっているのも、このような夫人の愕くべき手術効果がそれからそれへと云いつたえられたがためであろう。
 ヒルミ夫人が、なぜモニカの千太郎の何処に惹きつけられて花婿に択んだのか、それはまた別の興味ある問題だが、とにかく結果として、千太郎は万吉郎と名乗って、年上のヒルミ夫人のお伽をするようになったのである。
 当事者を除いては、誰もこの大秘密を知る者はない。もちろん警察でも、まさか千太郎が顔をすっかり変えて、ヒルミ夫人の花婿に納まっているとは気がつかなかった。そこでこの奇妙な新婦新郎は、誰も知らない秘密に更に快い興奮を加えつつ、翠帳紅閨に枕を並べて比翼連理の語らいに夜の短かさを嘆ずることとはなった。
 ヒルミ夫人の生活様式は、同棲生活を機会として、全く一変してしまった。彼女は篤き学究であったがゆえに、新しい生活様式についても超人的な探求と実行とをもって臨み、毎夜のごとく魂を忘れたる人のように底しれぬ深き陶酔境に彷徨しつづけるのであった。
「――いくら何でも、これでは生命が続かないよ」
 と、いまは心臆した若き新郎が、ひそかに忌憚なき言葉をはいた。》



何とも可笑しなテクストがあったものだ。
もしこれを、玄宗皇帝と楊貴妃が読んだとしたら、はたしてどう反応しただろうか。