バンリカイタク




 万 里 開 拓






遠大な荒野を切りひらくこと。大業を成し遂げること。
万里長風」「万里之望」とも。



さて、友人の失敗を慰め、励ますのは、殊の外、骨が折れることである。
慰める側の軸がぶれると沈鬱な気持ちがこちらにも伝染してきて、ついには共倒れに終わってしまうというケースも少なくない。友人に希望を持たせ、前を向かせるためにはどうすればよいか。



そのヒントは、有島武郎の手紙の中にある。
有島は生涯に2500通を越す書簡を書いたことで知られる筆まめで、たいへんな友人思いな作家であった。



《徹底した、感心によく徹底した。是れから出発する兄の思想と行為とには本当の力が湧くことゝ思ふ。僕は寧ろ今度の兄の失敗を祝福したい。
 餘程金は送るまいかと思つた。然し考へ直して十圓丈けお送りする。是れ以上のことをするのは兄に對して失敬でもある不親切でもある。
 祈るやうな心になつて僕は兄が此の二旬程の間になされる内部の戦闘が最善の結果に落着するやうにと願つてやまぬ。
 萬人の眼には失敗のどん底に沈める、而して兄の眼には――而して僕の眼にはと附け加へることを許せ――萬里開拓の門出にある。兄の上に神の、運命の、或は何者かの祝福裕なれ。》



簡単に要約すれば「失敗は成功の母」ということなのだろうが、「失敗は万里開拓の門出」とは、なんと素敵な言い回しであろうか! 札幌農学校にフロンティア精神を学んだ有島らしい四字熟語でもある。



なお、上記書簡は追加の借金申し込みの芽をあらかじめ摘んでおり、借金謝絶という意味でも満点である。手本になる。